私は、これまで一貫して生徒達に、「自主性」の大切さを話してきました。それは、皆さんに、勉強も部活も、学校生活のすべてを主体的に取り組んでほしいと考えていたからです。残念ながら皆さんは、3年間の内の2年間をコロナ禍にみまわれ、学校に通うことも部活動も制限されてしまいました。長期の臨時休業では、オンラインによる授業にも取り組んでもらいました。部活動においては、感染対策の中で、練習時間や活動内容の制限、練習試合などの制限もありました。また、大会が中止となり、目標を見失った人もいたことと思います。
しかし、私に写った皆さんの姿は、違っていました。皆さんは、放課後の練習や、なんとか開催できた大会においても、試合のできる嬉しさを体中で表し、元気いっぱいの姿を見せてくれました。
また、学校行事についても、クラスマッチや水商祭などの全校生徒で行う行事を無事終えることができました。全ての生徒達に、良い思い出となったと思います。
今振り返ると、これらの行事が開催できたのは、生徒たちがコロナ禍の中で、どうすれば実施できるかを考え、知恵を出し合ったからだと思っています。簡単に中止とせず、どうすればよいかを生徒自身が考えたということが大きな喜びとなったと思います。卒業生の皆さんには、コロナ禍でのこの学びを、将来同じような困難に立ち向かうときの糧としてほしいと思います。
水商は、物事を簡単にあきらめず、どうすればできるかを生徒自身が主体的に考える学校として、皆さんの後輩たちに受け継いでいってほしいと思います。
また、自粛生活の中で、不安からくる誹謗中傷や差別的言動が社会問題となりますが、本校にはそれがありませんでした。これも水商生の素晴らしいところであり、校長として大変誇らしく思っておりました。
卒業生の皆さん、「自主性」の次に目指してほしいこととして、私が伝えていたことは何だったでしょうか。それは「他者との協働」です。人間は一人では生きていくことができないので、「繋がり」すなわち人間関係を築くように話をしていました。繋がることは、時にストレスとなってその人を攻撃することもありますが、とてつもなく大きな力をもたらすことだと思っています。
組織の仕事は、一人ではできません。皆さんは、まずは自分の考えをしっかりと持つこと、それを主張できること、他者の考えにも耳を傾けること、そして思いやりの心を持つことが大切です。「繋がり」によって、単なる集団をチームへと進化させてください。
皆さんは、今後、社会人として、壁に突き当たることや挫けそうになることがあると思います。職場の雰囲気に馴染めず、人間関係がうまくいかない、仕事の内容が想像していたことと違う、自分に合っていないなど、こういった悩みは、多かれ少なかれ誰もが経験することです。
誰もが同じように悩みを抱え、それを克服して、現在があります。人に頼ることのできる人が、頼りにされる人になります。皆さんも人の痛みがわかる頼りになる人になってください。
最後に、私が教員になりたての頃の話を、卒業生の皆さんへの送る言葉とします。当時の私は、自分なりの目標を次のように立てました。1年目の目標は、「聞く」です。分からないことはなんでも聞いて仕事を覚えようということです。2年目の目標は、「聞かない」です。聞かれなくてもできるようになろうと思いました。3年目の目標は「聞かれる」です。周りの人から聞かれるようになりたいということでした。
1年目、2年目は、順調に目標を達成したと感じていましたが、3年目の目標はなかなか達成できませんでした。そこで、1年目、2年目の目標と3年目の目標の違いを考えてみました。それで分かったことは、1年目、2年目の目標は自分が努力すれば達成できることで、3年目の目標は自分だけがいくら努力しても達成できない目標であるということでした。
もうひとつ別のことも考えました。人にものを聞くとき、誰に聞くかということです。その答えは簡単でした。自分にとって聞きやすい人に聞く、ストレスのかからない人に聞くのです。仕事ができるかどうかではなく、人柄や人間性がこの場合の判断基準になるということです。
達成できたという気持ちになれなかったのは、私の人間性の問題だと気づきました。その後の私は、このことをずっと心に留め、3年目の目標を達成できるよう現在まで努力してきました。人間性を磨くのは長い道のりではありますが、卒業生の皆さん、自身を持って、元気に新たな道への第一歩を踏み出してください。
結びに、卒業生の皆さんが仲間とともに、これからの人生を幸せに過ごし、社会のために有意な信頼される人物として、さらに大きく成長されんことを心から願い、併せて、ご臨席の皆様のご健勝をご祈念申し上げまして、式辞といたします。
令和4年3月1日
茨城県立水戸商業高等学校長 武石 仁
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